日本に群がる「爆窃団」 スピード逮捕で見えた強欲さ(産経新聞)

【衝撃事件の核心】

 東京・銀座の貴金属店「天賞堂銀座本店」から200点近い高級腕時計がごっそりと奪われた事件は1週間も経過しないうちに、関与した疑いのある香港人と中国人の男女6人が香港警察に逮捕された。窃盗グループ「爆窃団」のメンバーとみられるが、香港メディアでは仲間割れで時計を横取りしようとしたことで、6人が捜査線上に浮上した可能性を報じている。中国の富裕層の高級志向を満たすため、犯罪集団が日本の貴金属に群がっているとされており、今後も爆窃団が暗躍する危険性を危惧(きぐ)する声がある。

 ■油圧ジャッキで壁に穴…根こそぎ奪う大胆手口

 「Rolex(ロレックス)」「ZENITH(ゼニス)」「Vacheron Constantin(ヴァシュロン・コンスタンタン)」

 9日、香港警察本部。会見場の机の上には商品タグがつけられ、ポリ袋に入れられた高級腕時計の数々がずらりと並んだ。その奥には、天賞堂銀座本店の外観や店内を撮影した写真も置かれていた。

 香港警察は7、8日に50代の男3人と30代の女3人の中国人と香港人計6人を盗品処分などの疑いで逮捕するとともに、住居など関係先から盗品の高級腕時計181点を押収した。押収した時計が並ぶ机の傍らには胸を張る捜査担当者の姿があった。

 捜査関係者によると、6人は日本で盗みを繰り返し、盗品を売りさばくアジア系窃盗グループ「爆窃団」のメンバーである可能性が高い。

 爆窃団−。油圧ジャッキなどを押し当てて壁を打ち破る大胆な手口で建物内に侵入し、現金や貴金属を根こそぎ奪っていく。中国語では「侵入盗」の意味で、香港では壁に穴を開けて盗むこうした手口は一般的だという。

 捜査関係者によると、天賞堂の窃盗事件の現場では爆窃団の犯行を類推させる痕跡が残っていた。

 有名百貨店や高級ブランドの旗艦店が立ち並ぶ東京・銀座の晴海通りでは年明けの2日も、例年通り、新春の期待感に胸を膨らませる買い物客らが行き交っていた。 

 午前10時20分。周囲のにぎやかな雰囲気をよそに、創業130年の老舗、天賞堂銀座本店の9階建てビルに出勤した男性店員は表情をこわばらせていた。

 地下1階の高級時計売り場の約10個のショーケースのガラスが粉々に割られ、破片が床に散らばっていた。宝飾がちりばめられるなどした高級腕時計がごっそりとなくなっていたのだ。その数は194点、被害総額は約2億4500万円に上った。

 「ロレックスは30万円から数百万円のものがそろっている。そのほとんどが持っていかれた」

 会社幹部は悔しげな表情を浮かべた。

 侵入経路は一目瞭然(りょうぜん)だった。隣のビルとの間にある路地に面した壁にぽっかりと穴が開けられていた。高さ約70センチの部分にあった排気口のふたを外し、周囲を壊して50〜80センチの大きさに広げられており、穴は地下1階に向かう階段につながっていた。

 「爆窃団の手口に似ている」

 現場に駆けつけた警視庁の捜査員はそう感じたという。

 約70センチ離れた隣のビルの壁には四角のへこみやひびがあった。穴を開けるために油圧ジャッキをビルのすき間に差し込み、壁を打ち破ろうとした可能性があるとみられる。

 ■経済成長続ける中国 狙われる日本の貴金属

 荒っぽく見える犯行だが、現場の状況からは入念に下見などの準備をしていたことがうかがえる。警視庁築地署などによると、地下1階には人の動きを感知する赤外線センサーが設置されていたが、壊された約10個のショーケースはいずれもセンサーが感知しない場所だった。

 店に設置された防犯カメラの映像にも周到な犯人の行動が映し出されていた。2日午前4時50分ごろから約1時間、地下1階の防犯カメラにショーケース付近でかがんで時計を盗む2人組の人影が映っていたが、「懐中電灯を照らしてやっている様子はなく、たまにライトがつく。どこに何があるか分かっているようだった」(会社関係者)。

 「正月早々、警視庁に挑んできた。かならず、ホシをあげる」

 捜査幹部は解決に並々ならぬ決意をみせていたのだが、事件は急展開をみせる。香港警察から7日、警察庁を通じて「容疑者の身柄拘束」の一報が寄せられ、2日後には冒頭の記者会見が開かれる運びとなったのだ。

 6人のうち、香港人の実業家、陳江耀被告(52)ら男3人と陳被告の妻ら女2人の計5人が盗品処分共謀罪で起訴された。裁判所のスポークスマンは「(陳被告ら)男3人が(天賞堂での)窃盗を認めた」と明らかにした。

 天賞堂の被害品のうち、製造番号が判明していた146点について、警視庁がリストを香港警察に送付したところ、関係先から押収された181点のうち104点の番号が一致した。警視庁の捜査関係者によると、さらにその後に明らかになった被害品の製造番号と照合を進めており、番号が一致する時計は大幅に増える見通しという。

 だが、被害品の一部は所在不明になっているようだ。事件発覚から2日後の4日、男3人は盗んだ時計を小包6個に入れて郵送し、このうち5個は香港警察が押収しているが、残り1個の所在は分かっていない。香港警察はすでに中国本土に売却された疑いがあるとみている。

 「経済成長を続ける中国では高級志向があり、ぜいたく品に対する需要が高い。このため、日本の高級腕時計や貴金属が犯罪集団に狙われている」

 事件の背景について警視庁の捜査関係者はこう解説する。

 ■「忘れたころにやってくる」 平成17年に活発化

 爆窃団は昭和60年代、主に香港から日本に流入したとされる。特に昭和62年と平成4年に事件が続発し、10年ごろまで全国で被害が相次いだ。一度は下火になったものの、17年から再び活発化した。

 警視庁によると、銀座からほど近い有楽町では17年6月からの約半年間で、壁に穴を開ける手口による事件が4件(未遂を含む)起きている。なかには高級腕時計6100万円相当が盗まれたものもあった。21年2月には銀座の貴金属店で約5000万円相当の貴金属も盗まれている。

 警視庁の捜査幹部は「壁に穴を開ける手口を基本にして、それをまねたり、発展させた形で犯罪が繰り返されている」と指摘する。特定のメンバーが犯罪を繰り返しているわけではないというのだ。

 地の利がない日本で“効率的”に腕時計やジュエリーを盗む爆窃団。アジア系外国人の犯罪に詳しいジャーナリスト、富坂聡さんは天賞堂が標的とされたことについて「セキュリティーのレベルやどんな商品が売られているのかなどの情報が、香港などで事前に売買されていた可能性がある」と指摘する。

 爆窃団は犯行後に出国する「ヒットアンドアウェー型」のため、摘発は難しいとされる。香港の地元メディアなどによると、今回の事件では陳被告ら男3人は昨年12月中旬に日本に入国。犯行に使用した工具なども日本国内で調達し、1月2日に天賞堂で時計を盗み、4日に香港に戻ったとされる。

 捜査は長期化が予想されたが、男たちは早々に特定された。その理由について地元メディアは「仲間割れの可能性」を指摘する。

 地元メディアによると、4日正午ごろ、陳被告が住む香港・九竜半島の公営団地近くの路上で、郵便配達中の郵便局員2人が男4人にスプレーで襲われ、郵便袋2つが奪われる強盗事件が発生。6時間後、郵便袋は別の場所で発見されたが、陳被告が住む公営団地宛の複数の郵便物は開封されていたという。

 香港警察は、仲間割れしたグループが天賞堂で盗まれた腕時計入りの小包を横取りしようとしたが、配達時間を勘違いした可能性があるとみている。横取りに失敗したグループが腹いせで陳被告らのことを警察に密告した、と報じる香港紙もあった。 

 警視庁は香港警察と協力して、窃盗事件の裏付けを本格化。近く捜査員を香港に派遣する方針で、現場で採取された足跡などの捜査資料を提供する。日本と香港の間には犯罪人引き渡し条約がないため、警視庁は男らを香港の法律で処罰する「代理処罰」の要請も検討している。

 「爆窃団は忘れたころにやってくる。貴金属店など狙われやすい店は、爆窃団に『やりにくい』と思われるようなセキュリティーや警備体制を整える必要がある」

 富坂氏はこう警告する。

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